赤いポストと白い手紙と

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郵便局員になって配属されたのは、山間の寒村だった。
疎らに点在する家屋。公民館にぽつんと佇むポスト。毎日十時、中の空洞の確認の為、二時間を往復した。

一年経った頃、集荷時間、ポストに爪先立ちの背中を見た。
「お嬢ちゃん、それ下さい」
空色のスカートが輪を描き、への字眉が跳ねる。
そう言えば先週、引っ越しの車とすれ違った。
「おじちゃん、ありがとう」
まだ十九だと笑い、その日は早く局に着いた。

以来、毎週ポストの横で待っていた。
空洞を確認がてら会話を交わす。文字を覚えた彼女は、童話の人物へ手紙を書き、次の集荷で『返事』を届けた。年を追うにつれ目線の高さが近付いた。

ある日、封筒の宛先が空欄だった。
最初のへの字眉が、顔のすぐ下にある。黙って預かり、逃げる様に車を走らせた。


今、古いポストのある村を、毎日二往復する。
集荷時間に彼女と会う事はない。
彼女は今、家で帰りを待っている。
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公開:19/01/23 10:00
着想:誰かさん「郵便ポスト」 ラブレターver.

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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