空に浮かぶおじさん

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「おい」
呼ばれて私は振り向いた。
誰もいない。
「おいっ」
まただ。私は振り向いた。
しかし誰もいない。
「向井」
今度は名前を呼ばれたから知り合いだと思ったが、誰もいなかった。
「向井っ!」
「誰だよ!いいかげんにしろよ!」
しかし、誰もいない。
「つむじっ!」
私は頭皮に風を感じた。
そうか。そういうことか。
私は構えた。どんな風にも対応できるように。
「モンロー!」
ん?
突然、地下鉄の通風孔からあたたかい風が吹き上げて、女装していた私のスカートがふわり。
ワォ。
しかしおかしい。
どうしてこんな声が聞こえるのか。
私は空を仰ぎ見て驚いた。
冬晴れの空にクジラのような大きな耳が浮かんでいる。
空耳か。
思ったのも束の間、それは空に浮かぶ大きなおじさんの耳だと気がついた。
おじさんはいろんな息を吹いては遊んでいた。
「バカヤロー!」
私は空に叫んだが、おじさんはどこ吹く風だった。
公開:19/01/22 16:33

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