何処にいても

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マリさんは泥棒だ。
夜空をマリさんが馳ける。屋根から屋根へ。星から星へ。
爪先で屋根を蹴り、左手で星を掴んで、右手でさっとダイヤを掠めて闇に紛れる。
そんな夢を見た。
僕が夜、机のノートにシャーペンを走らせる時、マリさんは月夜の浜辺で眠り続けた瓶詰めの手紙を拾う。それを初恋の夢を見るおばあさんに届けたら、アンティークの懐中時計を預かって遠い街の舞台裏、楽屋で化粧をしている男に届ける。
広く深い森、曲がりくねった川、少し先の空すら見えないビルの谷あい。
何処にいてもマリさんは自由だと思う時、机に向かう僕も自由だ。
マリさんがアフリカの端の崖に立って風を受けている。僕は机で、未来を思う。
そんな時、理由もなく「大丈夫だ」と思える。
空気を入れ替えようとカーテンを開けると、窓の外、バルコニーにマリさんが帰ってきた。
今夜は小さな木馬を抱えている。
「古いサーカスの遊園地から抜け出したんだって」
ファンタジー
公開:19/01/22 11:53
更新:19/01/22 15:58

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