冬の景色

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静かな夜だった。
出産に予定日があるように、父の死は大寒の頃になるだろうと告げられていた。その日は大寒。大きく寒い夜、生真面目だった父は予定を守るようにこの世を去った。
私は病室で葬儀社の車を待った。
さっきまで父の命を計っていたたくさんの機器や点滴が外されて、その電子音がなくなると、看護師さんの行き来も絶えて、私はひとり父の体温が冷めてゆくのを見守った。
電話した葬儀社は繁盛の夜で、到着するのは明け方になるという。
実家を離れて30年。ここは確かに故郷なのに病院ということもあってか、旅先にぽつんと残されたような、悲しいだけとは違うふわふわとした気持ちで、眠気や食欲や言葉を忘れていた。あのときの私は植物だった。
窓のカーテンを開けるといつのまにか雪が降り積もっていて、全ての音と父を吸いとってゆく。
だらり。
蒲団から父の右腕が落ちた。
親指には蜜柑のあと。

それが私の冬の景色になった。
公開:19/01/22 10:44
更新:19/01/29 13:23

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