図々しさ

JR王子駅前。

候補者が選挙運動で、街頭演説を行っている。

「私達の住むこの日本という国は、今後、どのような進化を遂げていくのか。十年、二十年後には、貧富の格差が広がり、失業者は年々上昇していく一方です。生きるために金を稼ぐ。それが今後の日本になっていくのではないのでしょうか」

候補者は、聞く耳を持たずに通勤するサラリーマンになげかけた。

ガムを噛みながら、ヘッドホンで音楽をきく若者は、候補者を鼻でわらいながら通り過ぎていく。

夜になると、JR王子駅の周辺のトンネルで、一人の青年が弾き語りを始めた。

会社帰りのサラリーマン達は、青年の声に誰一人耳をかたむけなかった。

人間は、家族や恋人、友人など自分と関わりのある人間には興味があるが、それ以外は無関心である。
命に危険を感じてから優しくなったりする図々しい生き物でもある。