十二支の幹事確認／寅

　猫がバスに化けると、虎もバスに化けた。猫が路面電車に化けると、虎もまた路面電車に化けた。
「見事ニャ。もう教えることはにゃいニャ。あとは思う存分人を化かして遊んだらいいのニャ。でもせっかく綺麗な黄色と黒の縞だから、タクシーにゃんかいいかもニャ」
　化け猫師匠はころころと笑いながら、路地裏の闇に溶けてしまった。虎は嬉しくなって、さっそく黄色と黒のタクシーに化けると、人の街へ向かった。

「これくらいの距離ワンメーターできなさいよ！　だったら歩いたわよ！」
「どこ走ってんだよ！　道も知らねぇくせに俺の前流してんじゃねえよ！」
「下手糞！」

　虎は埠頭で海を眺めていた。波の音を聴いていると、ぽろぽろと涙が零れた。
「お前はバスでもタクシーでも、猫でも虎でもないだろう？　戻っておいで」
　魔女が優しく撫でてやると、虎の縞模様がするすると縮んで剥がれ、しっとりと艶の美しい、つげ櫛になった。