春を届ける

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マリさんは泥棒だ。
学校帰りにスーパーに寄った。卵と納豆だけ買って帰るつもりで。スーパーの入り口近く、野菜コーナーに菜の花が並んでいた。
こんな真冬から菜の花って売ってるんだなとぼんやり眺めているうちに、マリさんが春に咲く黄色い菜の花が好きだったと思い出した。
マリさんは菜の花が食べられるなんて知らないだろう。
家に帰って「菜の花」のパックを開けると、それは茎と緑の蕾だった。がっかりして冷蔵庫にほったらかしていたら、忘れた頃に蕾から黄色い花が顔を出した。レシピを検索して、茹でてお浸しにする。後はマリさんを待つだけだ。
真夜中になる前にマリさんが帰ってきた。チューリップの花束を抱えて。
花瓶にさっとチューリップをいけて、「春を盗んじゃった」とマリさんが笑う。
僕はテーブルに並べていた菜の花を背中で隠した。
どうしたの?とマリさんが僕の肩越しを覗き込む。
そして、「春だね」ともう一度笑った。
ファンタジー
公開:19/01/17 18:02

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