だいずなあなた

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戦いは終わった。
男は面をはずして晩酌をはじめた。女は鍋の準備をしている。さっきまで泣いていた娘はりんごジュースを飲んで無邪気に笑っている。
私はキッチンワゴンの下で勝手放題な人間たちを眺めていた。
私は大豆だ。乱暴に投げつけられて本来の役目を果たせぬまま床に転がっている。
妻はマンションの外階段に投げられて連絡がとれない。
兄は仕事帰りの男の足に踏まれて捨てられてしまった。
弟は娘に弄ばれた上に学校へ連れていかれた。無事を祈るしかない。
共に北海道から豆腐の道を志して上京した友は、玄関でその身を砕かれて外に掃き出された。旨味あふれる彼が食べられないなんてことが許されていいのだろうか。
春になっても放置されていた私は、ある日温かさと生臭さの中で目を覚ました。猫のチャーコだ。翌日私は姿を変えて公園の草むらに落とされた。
愛おしいにおいがする。消化されていたって私にはわかる。
やっと逢えたね。
公開:19/01/18 11:47

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