スケッチブックの檻

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物書きの他、趣味で鉛筆画をやっている。
スケッチブックを我流で埋める暇潰し。もっぱら花や静物を描いたが、遠方の知人が、中学生の息子を描いてくれと言うので、写真を借りて1枚描いた。
「上手い、よく似てる」
好評を得て、素直に嬉しかった。
「少し大人に描き過ぎた」
子供に不慣れな線は、実物より幾らか上に見える。『年のわりに小さくて』とこぼした声を、無意識に反映したのか。
「いいの。未来の希望だと思っとく」
彼女に乞われ、スケッチから千切って渡した。

翌年会った彼女は嬉しげだった。あれ以来、息子の背が伸び、めっきり大人びたらしい。
「今ね、あの絵そっくり」
験の良い絵になった。次は家族の肖像を贈ろうと思った。

更に数年後、再会した彼女は憔悴していた。
「……どうした?」
無言で示す写真に、見知った少年の顔。
「大きくならないの。……あの絵のまま、ずっと」
写真の日付は、つい昨日のものだった。
ホラー
公開:19/01/17 23:32
更新:19/01/17 22:07
趣味ネタ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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