爪痕

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起き抜けにシャワーを浴びる。
湯がひり付いて鏡を覗けば、背中に引っ掻き傷。
「……またやられた」
苦った口が零す吐息は甘い。

会社でうっかり着替え、冷やかされた事がある。
以来、制服を中に着て出社する癖が付いた。
シャツでぎりぎり隠せる、襟と喉に三日月を散らす。
手首を抓って痣を刻む。胸をキャンバスに落書きする。
夜には大抵消えるが、興が乗るとこの様だ。
わざわざ釘なんか刺すまでもないのに。

「なるべく早く帰るから、良い子にしてな」
眠りについた指へ唇を寄せ、鍵を掛ける。

午前6時から18時間の主導権。
毎日約1分ずつ短縮されるから、残り3年弱。
完全に支配を明け渡すのが早いか。
身体ごと息を止められるのが先か。

――切り落としてしまえば逃れられる?

別に構わない。全部くれてやっていい。
触れたい。触れてほしい。君と繋がりたい。

爪先にしか存在しない、夜の君に恋い焦がれている。
ホラー
公開:19/01/14 06:18
怪談:恋愛の手動権

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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