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母は高齢だ。
一日ぼんやりと過ごしている。
父は数年前に死んだ。
ある夜、母が窓から外を見ていた。
「何をしているんだい」
「迎えを待っているの」

翌日の夜、母はじっと外を眺めていた。
「何をしているんだい」
「迎えを待っているの」
「誰を」
「お父さん」

次の日も、
次の日も、
母は迎えを待った。

ある日のこと。
母はいつものように外を眺めていた。
「ベッドに戻りなよ」
「迎えが来たわ」
母が嬉しそうに指をさして答える。
僕はゾッとした。
確かに父らしき男が外にいるではないか。
「私は行くわ」
「だめだよ、母さん」
「お父さんが迎えに来たのよ」

父と母は愛し合っていた。
最期の最期まで父の手を握っていた母。
「あの人の元に行かせて」
「わかったよ…母さん、さようなら」
母は連れていかれた。

次の日、僕は或る事に気が付き死ぬほど後悔した。
母を連れて行った男は、父ではなかった。
ホラー
公開:19/01/15 19:27

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