まるでそらんじているかのように

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毛布がこの世界で一番好きだと、言うべきこともないが故に言いたくなってしまった。
そんな動機に包み込まれるがままに、また、やはり毛布にも包み込まれ、見も知らぬホテルの廊下をゴロゴロと気の赴くがままに転がっている。
これもまた一種の仕事と言えるのではなかろうか?
そんな疑問が頭をもたげては、決して実ることなき種子として完全な無音で腐り落ち、すかさず私は、このちくわめいた毛布の砲身から鋭い眼光のビームだけを世に放った。
「それにしても、このホテルは嫌に寒々しい。まるで温もりを束の間忘れさせることをおもてなしとして提案しているかのようだ。むしろ、そもそもこの世界自体が非情なる仮の宿なのだから、この程度で震えているような輩におもてなしなど振舞われよう筈もない、とか、そう言わんばかりだ」
ひとしきりブツブツ言っていたら、セキュリティの声紋認証が解除され、私は無事どこかの部屋に入ることができた。
青春
公開:19/01/12 12:10
更新:19/01/12 12:14

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