妨げてはならない

藤田さんは「眠れる獅子」である。人気者の彼女だが、誰もその眠りを妨げてはならない。授業時間に眠っていた彼女を起こした教師のヅラが弾け飛び天井にコンパスで打ち付けられたことがある。そう、彼女は「睡拳」の使い手だったのだ。
「次は自白剤を使って脅す」
意味のわからない寝言だったが、教師にトラウマを植え付けるには十分だった。
事件は始業式で起きた。夏休み明けでみんな気が抜けていた。藤田さんも爆睡していた。
「こら！みんな弛んでるぞ！」
教頭がマイクで一喝。ハウリングが不協和音を奏でた時。
ーー彼女の眠りが妨げられた。
出口に殺到する生徒たち！制御不能の群衆に圧倒される教師たち！昏倒する教頭と巻き添えを食らった教師が織りなす死屍累々の山の上で、藤田さんが眠ったまま立っている。
「腕が鳴りますねえ」
校長が上着を脱ぎ、筋骨隆々の上半身を露わにした。
「再教育をしましょう」
校長がついに本気を出した。