掲揚と降納

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 四角い部屋にベッドが一つ。私はベッドの鉄柵に頭を凭れさせて、一番遠くの壁にポカンと開いた四角い窓を眺めている。枕は無い。
 ここは井戸の側壁に穿たれた小部屋だ。垂直の空間を挟んで、積層する窓が向き合っている。
 焦げ臭い匂いが漂ってきた。旗が降りてくるのだ。旗の降りてくるときが最も危険だ。井戸の中を降りていく旗の翻るのに巻き込まれた人間が、バラバラと落ちてくるからだ。旗は絶叫を先触れに降りてくる。
 旗の掲揚降納係は交代制だと聞いたことがあるが、まだ一度も回ってこない。
 今、窓の外を旗が通過した。それは一瞬だ。それぞれの窓の「一瞬」を繋ぎ合わせたものが、長大な旗竿の距離であり、旗の往復する距離だった。 
 就寝の音楽が終わると、掲揚の歌が始まった。朝だ。
 眠っているのか起きているのか分からないまま、あらん限りの声を張り上げて歌う。掲揚される旗が窓に現れるのを、一心に待ち焦がれながら。
その他
公開:19/01/13 10:35
更新:19/01/13 13:53

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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