はなきん

一人一台と言っても過言でないほどのVR普及に伴い、空前の昭和ブームがやって来た。
毎週金曜の夜にVR専用番組が放送されるようになってからの事である。
『はなきん』と名付けられた、この番組は視聴率五十％を超えるオバケ番組となった。
視聴者層は老若男女幅広い。
なにしろ、今では伝説となっているバブル時代のあれこれを体験出来るのだ。
これによって、金曜日の夜は街からごっそり人びとが消えた。

「お腹減ったねぇ」
「今日はアレの日だから諦めろ」
「ほんと、ひでーよなぁ」
「朝から浮かれっぱなしなんだから仕方ねぇよ。アレで頭いっぱいなのか、なにもしやがらねぇ」
「いっそ前の日の残りでも良いのにねぇ」
「まぁ、ないものはないんだ」
「ご飯食べたーい」
「余所行って食ってこいよ」
「何処行っても同じだよ」
「それもそうか」

金曜の夜。
あちらこちらの家で、空の皿を見つめながら、犬や猫たちがないている。