飛来幸

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葬祭の仕事柄、胡蝶蘭をよく扱う。
花が上品で見栄えがするし、日持ちも良い。
『幸福が飛んでくる』という花言葉に、祈りを込めて贈る人も多い。

その日も式で使う鉢を搬入し、帰ったなりクレームに見舞われた。
届けた花が欠けていると、喪主様が酷くお怒りだった。
トラックの荷台に、一輪落ちていた。即謝りに伺った。
涙に暮れる老婦人と、鉢の真ん中にぽっかり空いた一輪。
長年連れ添ったご主人を亡くされ、いたく気を落とされていた。
彼女の憤りと無念と、やるせない悲しみを、日の暮れるまで聞いた。


今も年に一度、ご主人の命日、彼女の家を訪れる。
他に身寄りのない彼女に、思い出話の出来る相手は貴重だと言う。
『お迎えの時は貴方に頼むわ』と笑う声を、あと何年聞けるだろう。
縁側でお茶を飲みながら、微かに線香色の風を嗅ぐ。
ご主人の遺影の側に、胡蝶蘭が12年目の蕾を伸ばしている。
その他
公開:19/01/11 11:21

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