忘年会

「忘年会へようこそ。指定された年の記憶を消去できます。仕事の失敗・失恋・死別など悲しい記憶はありませんか？」
受付は慣れた様子で喋った
「まあ、消すというより改竄ですが。脳の記憶を司る部分・海馬はご存知ですか？」
『教科書で』
「それは文字通り、馬なのです。脳という大海を駆ける馬。嫌な記憶は不味いエサ、いい記憶は美味いエサです。そこで海馬に美味いエサを過剰に与え記憶を改竄するのです。一種のショック療法ですよ。馬の好物は？」
『ニンジ……』
「正解。ニンジンを貪る記憶が海馬の一番の幸せなのです」

左遷、入院、離婚
今年は厄年だった
まだ立ち直れない
私は参加を決めた

男は私の頭に手をかざした
｢記憶力が良いお方だ｣
｢なぜわかるんです？｣
｢特殊能力です。あなたはサラブレッドです｣
その瞬間、大量のニンジンが私の口に押し込まれた

復讐完了だな
ああ、人間は我ら馬にニンジンを食わせすぎる