送る言葉

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僕の父は芸人だった。それも大人気芸人だった。
しかし、僕はそんな父を一度も面白いと思ったことがない。
仕事に真面目な父に休みなんてなかった。1日家にいるかと思えば、終始ネタ帳と睨めっこ。
僕はそんな父が嫌いだった。

その父が亡くなった。僕は喪主を務めることになった。
皆が悲しみに沈む中、僕は父の形見を身に着けマイクを持つ。
皆、驚いた表情をしている。そりゃそうだ。僕は鼻眼鏡を付けている。
そんな僕を見て、顔を真っ赤にして近寄って来るのは父の相方だ。
父の相方は僕の胸ぐらを掴む。僕はその人の頭にフッと息を吹きかけた。
父の相方の髪がフワッと舞い上がり、ハゲ頭が現れた。
「今日は風が強いようですね」
僕の言葉にクスクスと笑い声する。
「せやな…って言うとる場合か!」
皆が笑った。
父は葬式も皆に笑顔で見送って欲しいと言っていた。
どうだ親父。これで満足か。
僕も笑う。この涙はきっと笑い涙だ。
公開:18/10/17 19:06
更新:18/10/18 18:50

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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