猫とレントゲン

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「少し咳が出るの」
 いつも通りクッションで丸まっている猫を撫でながら、妻が言った。
「でも、目やにも鼻水も出てないの」
「逆に、心配だね」
 僕たちは猫を病院に連れて行った。
「心配ですね。レントゲンを撮ってみましょう。待合室でお待ちください」
 診察台であくびをしている猫を撫でながら、医師が言った。
 ほどなく、レントゲン写真を前に医師の説明を受けた。
「肺も気管支もきれいです。でも咳が心配なのでお薬を出しておきましょう」
 僕たちは猫を連れて家に戻った。
 翌日は、会社の健康診断だった。レントゲン技師は、明るい男だった。
「ええ、顎はこちらへ。少しかがんでいただいて。冷たいですけど、ぴったりと胸を。はい。では息を大きく吸って~。吐いて~。吸って~。止めて!はい。ありがとうございました」
 シャツのボタンを留めながら僕は、『うちの猫もこうやってレントゲンを撮ったのだな』と思った。
その他
公開:18/10/16 09:58

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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