特別な一皿

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ある夕方の頃
ご近所の妙さんが「これ貰い物なんだけど、あなたにお裾分け」と言って新聞紙に包まれたビワを持ってきた
まあ、いつもすまないわね
いいのよ。気にしないで
何十年も繰り返し、習慣化されたやり取りだ。
それから、二時間ばかりは妙さんと世間話をした。
夜になり、食事の支度が済んだ頃、私は妙さんから貰った新聞紙の包みを開き、その中から傷が少なそうなビワを一つ指で摘まんだ。そして、薄皮をゆっくりと剥がし、口に頬張った
はぁ~甘酸っぱい
そこへ丁度、旦那が帰ってきて私の顔を見るなり、俺にもくれよと年甲斐もなくせがんだ。
旦那の歯は全て抜け落ち、固いものは食べれない
ハム、ハム、ハム
そんなに急いで食べなくてもまだまだありますよ
旦那と私はハハハと笑った

そんなあの人も昨年、亡くなった
ふと、街でビワを見ると旦那と過ごした思い出がよみがえる。今も縁側にどっしり座り、私が来るのも待っている様な
公開:18/10/14 14:54
更新:18/10/14 14:59

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