忘却のヘーゼルナッツ

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最近、どうもうっかりすることが多い。他人にも迷惑をかけることが増えたので、いよいよと思い病院に行った。若年性のアルツハイマーだった。

会社は早期退職し、親しい数人にだけ、手紙で病気であることを伝えた。

何人かから返事がきたが、その中の1人が向井という男だ。

彼が寄越した封筒の中にはコロンと一粒ヘーゼルナッツが入っていた。
「ははっ」
つい声が漏れた。なつかしい。

手紙にはこうあった。

高野さん、お久しぶりです。ヘーゼルナッツの事件、まだ覚えているでしょうか。たとえこれから先、忘れてしまっても僕が何度でも話をします。なので無くさずに持っていてくださいね。

皆が、口々に感謝の言葉を述べるなか、彼だけが未来の話をしてくれた。そうだな。「忘れない」は無理かもしれない。でも「無くさない」ならきっと出来る。

手の中の小さなヘーゼルナッツが、見えなかった私の未来に一粒の勇気を与えてくれた。
その他
公開:18/10/14 00:00

tom( 神奈川 )

ゆるゆると書いてます^^自分で読んでおもしろいと思うような文章が書きたいです!よろしくお願いします!

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