午後の爆撃

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 池に映る百日紅にむかって口を開けている鯉は、午後の陽射しを反映し、黒板の右上方の、数直線の-3から+2の辺りに映り込んでいた。千志摩はそれを見つめている。
「いいか。数直線に表せない数はない。数はみんなこの中にあるんだ。0.0001の次は0.0002じゃない。0.000111111111111・・・」
 教師は黒板を殴りつけるように、白い点を打ち続けた。辺りに粉が舞った。千志摩はふと、こんな細かなチョークの粉でも、今、この教室の正しい位置に影を落としているはずだと思い、何だか、幾重にも折り畳まれていた自分が、どんどん広がっていくような気がした。
「千志摩。聞いてるのか!」
 教師がチョークを投げる。それは窓枠に当たって無数の断片となり、池を絨毯爆撃した。鯉は次々と百日紅の花を吐き戻した。水面が大きく揺れ、反映はモアレとなって数直線をズタズタにした。
 その光景に千志麻は恍惚としていた。
その他
公開:18/10/13 23:02

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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