あやめもよう
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梅雨入り間近の6月末、昼寝に寄った植物園。
ベンチに腰を下ろすと、ズボンの尻に嫌な感触がした。
飛び退いた板目に、鎌を振り上げ、威嚇する三角。
虫は苦手だが、特にこいつはぞっとする。
エイリアンじみた顔。でかい腹。グロテスクな卵。非力な武器で虚勢を張る習性も、わけもなく不快だ。
半分ひしゃげた腹を抓み、目前の池に放る。
濡れてだらしなく開いた翅。弱く水を掻く肢。またわけもなく気がとがめ、しゃがんで指を伸ばす。
――すぱ。指先に5ミリ程の赤線が引いた。
どす黒く焦げた衝動が、虫けらを水底の泥にめり込ませる。
ぷくん。水面に小さく泡が立った。
踵を返す靴が、鋭角な葉に取られ飛沫を跳ねる。びしょ濡れの尻を、半分ほどけた蕾が突く。
三枚開いた花弁へ走る、赤茶けた網目。
濁った泥を這い上がる、錆びた臭い。
一部始終知られた。背中まで冷たくなる。
花頭を折り、俺は懸命に平静を装って水際を去った。
ベンチに腰を下ろすと、ズボンの尻に嫌な感触がした。
飛び退いた板目に、鎌を振り上げ、威嚇する三角。
虫は苦手だが、特にこいつはぞっとする。
エイリアンじみた顔。でかい腹。グロテスクな卵。非力な武器で虚勢を張る習性も、わけもなく不快だ。
半分ひしゃげた腹を抓み、目前の池に放る。
濡れてだらしなく開いた翅。弱く水を掻く肢。またわけもなく気がとがめ、しゃがんで指を伸ばす。
――すぱ。指先に5ミリ程の赤線が引いた。
どす黒く焦げた衝動が、虫けらを水底の泥にめり込ませる。
ぷくん。水面に小さく泡が立った。
踵を返す靴が、鋭角な葉に取られ飛沫を跳ねる。びしょ濡れの尻を、半分ほどけた蕾が突く。
三枚開いた花弁へ走る、赤茶けた網目。
濁った泥を這い上がる、錆びた臭い。
一部始終知られた。背中まで冷たくなる。
花頭を折り、俺は懸命に平静を装って水際を去った。
ホラー
公開:18/10/13 21:16
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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