ふくらはぎ

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 女は、まどろむ信夫に馬乗りになり、出刃をかざした。
 障子越しの淡い光の中を閃光が走った。
 出刃が信夫の肋骨の隙間に滑り込むと、光が体内を照らした。臓器や関節の隙間を回り込み、喉から脳髄へと照射する光は冷たかった。体内に光が満ちるとともに、信夫の眼前には闇が落ちかかってきた。
 女は両手を出刃の柄に添え、さらに深く押しむ。長い髪が細かく震えながら、信夫の首や鼻をくすぐる。
 女の息が近くなる。
 両手を添えた出刃の柄に自分の額を押し当て、拝むような姿になった女の背に、やせた肩甲骨がえぐれていた。
 女の頭が下がっていく。

 やがて女の重みが消えた。信夫は胸の上に、白く滑らかな物が二筋、光っているのを見た。それが女のふくらはぎだと気付くのと、そのふくらはぎが、信夫の胸の中に没するのとは、ほとんど同時だった。
 女は消えた。
 布団は真っ赤だったが、信夫の身体には傷一つなかった。
ホラー
公開:18/10/15 11:17

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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