甚五郎の皿

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名工・左甚五郎。
日光東照宮の眠り猫を掘った事で有名な伝説の左官職人だ。彼には数々の逸話が残っている。木で掘ったネズミが動きだしたとか、竹で作った水仙の蕾が花を咲かせたとか。
ある宿に、その甚五郎が掘った皿があった。宿屋の主人から宿代の形として「刺身が旨い皿を作ってくれ」と言われて掘った木の皿だ。皿には波が掘られていて、まるで海の中のようだった。が、それだけではない。甚五郎の皿は、やはり特別だった。皿の上に魚を乗せると、切り身だった魚が動き出すのだ。それはまるで、魚が自分が死んだ事を忘れて、海に戻って泳いでいるかのようだった。
その皿で食べる刺身は絶品だった。
「この皿に魚を乗せると、時が遡って新鮮になる。奇跡じゃな」
そこで宿屋の主人は、ふと思いついた。年老いた自分が乗れば若返るのではないか?
主人は恐る恐る皿の上に足を乗せた。



翌日。皿の上で溺れ死んだ主人に、宿は大騒ぎとなった。
ファンタジー
公開:18/10/14 23:28
更新:18/10/15 06:29
落語「ねずみ」「竹の水仙」 YouTubeで歌丸師匠の 「竹の水仙」聴けます。 創作落語

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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