かみさんのおねだり

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「あなた~」
また始まった。苦笑いしながら、ちゃぶ台に茶碗を置く。
「何だい、お前」
毎度の事だ。かみさんが語尾を上げるのは、欲しいものがある時。
先月は金婚式のハワイ旅行。十年前に定年を迎えるまで、ろくにかまってやれなかった。息子も結婚し、孫も大きくなり、夫婦水入らず、二度目の蜜月を満喫した。
「これが最後ね」なんて、淋しい事を言ってたが、墓に入る前に、もう一回くらい行こうじゃないか。
「ねぇ、あなた~」
恥ずかしいよ、と照れつつ、嫌でないこの響き。最近の若者は「萌える」と言うのか。こんな冴えない男に、よく今日まで付いて来てくれた。
「よしよし。まだ退職金はある。多少の贅沢は許す」
「私、どうしても欲しいの。十年間、ずっと欲しくて」
「水臭いな。言ってくれれば買ってやったのに」
バシン!ちゃぶ台に白い紙が叩きつけられる。
「これに署名と捺印をちょうだい。慰謝料は退職金の残金でけっこうよ」
ホラー
公開:18/10/12 10:37

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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