夜の中華屋

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 餃子がくると、文男は割り箸を口で引きむしるように割り、コップのビールを一気に飲み干して会心の笑みを浮かべ、その顔のまま、餃子を3つ、まとめて口に放り込んだ。店主が無言でチャーシュー麺を置いていく。文男は餃子を頬張ったまま、ラーメンに取り掛かろうと、顔を上げた。
 と、先客の二人が、まだ何も食べていないらしいことに気づいた。一人はカウンター席で、テレビのナイターを見ている。別の一人は入り口のすぐ前のテーブルで、漫画雑誌を読んでいる。二人の前には空のコップがあるだけだ。
 文男は居心地が悪い。その気分を振り払おうと、盛大に麺をすすり、チャーシューを頬張る。ビールを注ぎ、ゴクゴクと飲み干す。
 「おやじ、もう一本」「ハイヨ」
 先客の二人は文男と店主を完全に黙殺し、店主もその二人を無視している。
 文男はラーメンの最後の一滴を飲み干すまで、居心地の悪さをごまかし続けなければならなかった。
その他
公開:18/10/12 10:08

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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