こしのあるひらがなには先もある

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「おや、何を書いておる?」
 縁側にしゃがみ、孫が鉛筆を握っている。
「ひらがな~!」
「ほう、最近は、保育園も平仮名を書かせるのか……どれどれ?」
 覚束ない手つきが愛しく、しわの寄った紙に躍る文字を辿る。手が動くと口も動く。昔の私もこうだった。
「か、く、け、こ、し、」
か行とさ行を練習中だが、「き」と「さ」が難しいのか飛ばしてしまう。
「おや、「こ」が曲がっとる。「こし」が「いし」になったぞ」
鉛筆が書いた文字を黒く塗りつぶす。
「次は「し」が曲がった上に裏返った。まるで「こつ」じゃ」
いびつな黒丸が並ぶ。下に再び書くが、やはり変に間違う。
「駄目駄目。そこは……」
「もう、おじいちゃん、だまって!」
これが老人の悪い癖。つい口を挟み、いつもうるさがられる。
「すまんすまん。しかし、平仮名は基本じゃ。書く間は「気」を入れ、「腰」を正しく据えて練習しなさい。この後に「差」が付くぞ」
その他
公開:18/10/13 02:21
更新:18/10/13 08:00

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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