「風鈴」

チリンチリン。

彼女は軒下で声を上げ続けていた。
明日は夏祭り。この家の子供たちが、ずっと楽しみにしていた一大イベントだ。
しかし明日の天気は雨らしい。夏祭りそのものは雨天中止にはならない。ただ、子供たちが最も楽しみにしている打ち上げ花火が中止になってしまうのだ。
これは一大事である。
そんなわけで、彼女は必死に声を上げていた。なんとか明日晴れますように、と。


翌日。
空は見事に晴れた。彼女の声はすっかり枯れている。彼女にとって、声が枯れるという事は致命的。それでも、どこか誇らしげだ。彼女が呟く。

てるてる坊主の役目、果たせたかしら？


夜になり、浴衣を着た子供たちが嬉しそうに家から飛び出していった。彼女は静かに子供たちを見送る。

遠くで打ち上げ花火の音が鳴り始めた。今夜は涼やかな風が吹いている。

風が彼女を揺らす。
凛とした力強さと美しさをのせ、高らかに。

ヂリンヂリン。