シャワーの音が

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 「夜が這入ってくるから」と、窓を閉め切る男の話が、つげ義春にあったなと思いながら裸になる。
 シャワーを浴びていると、様々な音が届く。たとえばそれは、名前を呼ぶ声だったり、亡くなった猫が爪を研ぐ音だったり、一口コンロから何かが吹き零れる音だったり、電池の切れた玄関チャイムの音だったり、扉をノックする音だったりする。
 全てはシャワーから垂れ流されるぬるい水滴の反響が作り出した、幻に過ぎないと思う。それでもシャンプーの合間に無理やりまぶたをこじ開けて見ると、スリガラスの向こうを白いものが漂っているのを見たような気持ちになったり、換気口の上を、何か重たいものでも引きずるような音が、通り過ぎていくのが聞こえるような気持ちになったりもする。
「さびしいのは俺か。それとも俺のような者を求めなければならない者どもか」
シャワーを止めると一切は静まり、夜が這入ってくる。男は体育座りをして布団を被る。
その他
公開:18/10/10 11:39

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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