花びらの体温
13
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うたた寝から覚めると、飲みかけのコーヒーに花びらが浮いていた。
なかなか風流だ。春をひとひら加えた紙コップを、僕は口に含んだ。
「どうしても、貴方のそばにいたかったの」
舌に引っかかった薄紅が、彼女の最後の声を蘇らせる。飲み込んだ感触はほんのり温かく、じわりと罪悪感の味がした。
「毎日、君の声が聴きたい」
華奢な薬指に指輪をはめた日も、花吹雪が舞っていた。こくんと頷いた彼女の声を、結局僕は、季節四つ半しか聞けなかった。
「ごめんなさい。それでも私は……」
窓の隙間を抜ける、木枯らしそっくりな響き。なぜこんなになるまで放っておいた。病院の帰り路、彼女をひどくなじってから、自分の不用意な要求を思い返し、つぼみの固い並木を、ただ見上げて歩いた。
そっと肩を叩かれ、僕はベンチから彼女を振り向いた。
苦笑いして、包帯の取れた喉に唇を寄せる。さっき体の中へ滑り落ちた、花びらの温度と一緒だった。
なかなか風流だ。春をひとひら加えた紙コップを、僕は口に含んだ。
「どうしても、貴方のそばにいたかったの」
舌に引っかかった薄紅が、彼女の最後の声を蘇らせる。飲み込んだ感触はほんのり温かく、じわりと罪悪感の味がした。
「毎日、君の声が聴きたい」
華奢な薬指に指輪をはめた日も、花吹雪が舞っていた。こくんと頷いた彼女の声を、結局僕は、季節四つ半しか聞けなかった。
「ごめんなさい。それでも私は……」
窓の隙間を抜ける、木枯らしそっくりな響き。なぜこんなになるまで放っておいた。病院の帰り路、彼女をひどくなじってから、自分の不用意な要求を思い返し、つぼみの固い並木を、ただ見上げて歩いた。
そっと肩を叩かれ、僕はベンチから彼女を振り向いた。
苦笑いして、包帯の取れた喉に唇を寄せる。さっき体の中へ滑り落ちた、花びらの温度と一緒だった。
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公開:18/10/09 23:07
創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞
いつも本当にありがとうございます!
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