夏の甲子園

「裕太が情けない顔をしているとこっちまでおかしくなりそう…夏の高校野球は確かにこれでお終いだけど、次があるじゃん。腕の怪我だって直ぐによくなるよ。なんで直ぐに諦めるの？なんで直ぐに逃げるの…
ずるいよ…裕太は…」
咲はすすり泣いた。
「俺はこの大会に全部をかけてきたんだよ。咲に俺のなにが分かるんだよ。放っておいてくれよ。本当にさ。野球は恋愛じゃねーんだよ…」
裕太の肩はすっかりと落ちた。
夏を終えた蝉の一生のような淀んだ目をしていた。
「私が裕太の腕になってあげるから…だから、現実から逃げないでよ。お願いだから。私は裕太がどれだけ情けない顔をしてもいいよ。ずるいよ…」
咲は更に大粒の涙を流す。
「俺にはこれしかなかったんだよ…」
裕太は咲の腕の中で泣いた。