抜けてる僕

どういう気まぐれか、鏡の中の僕が家出した。
「〝Sハ厺ち“╯冂ち」
読めそうで読めない微妙な書き置きを残して。
ああ、最近適当にしか見てなかった。
どうせあいつは、僕と一緒でビビりだ。目先を変え、家じゅうの窓に始まり、グラスに食器に果てはアルミホイルなど広げてみる。
……いねぇ。
今年は猛暑だ。優雅に避暑の魂胆か。近所の川や水たまり、フェイントかけてマンホールの蓋までこじ開けた。
…………くそ、外れ。
意外とこんなとこに潜んでたり。ポケットに突っ込んだライターとにらめっこ。
………………さすがに窮屈か。
もうちょい服とか髪型とか考えてやれば。反省してうな垂れた頭が、２個？
あのな。この炎天下、アスファルトの上で黒ずくめって……。
すねて縮こまる僕に指をかざして小突き、ガンガンにクーラー利かせた部屋へ無事帰還。
した、が。
おいこら僕。鏡のくせに左右正位置だぞ。
もっぺん抜けて入れ替えろ！