醤油

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マリさんは泥棒だ。
そのこと以外は、マリさんは普通の人とかなり近い。と僕は思う。たぶん。
マリさんは時々機嫌が悪くなる。特に朝と寝起きは最悪だ。
新学期早々に、僕は制服のブレザーに醤油を派手にこぼした。醤油くさい制服で、始業式に出ろというのか。
「ねぇ、マリさん。この醤油のシミ、盗んでほしいな」
「私を便利に使わないでよ」
マリさんはシミを乱暴にむしり取ると、丸めて壁に向かって投げたり、広げて指先でピザ生地を回すみたいにくるくる遊び出した。
「ありがとう」と言って、僕はさっさと出かけた。
夕方、家に帰るとマリさんはもう泥棒をしに出かけていた。そして、深夜に差し掛かる前に、マリさんはするりと部屋に戻ってきた。
「お帰り。今日は早かったね」
「あのシミ、どうしたと思う?小学校の全部の教室にちぎって隠してきたの。これでもう、誰もこぼした醤油の匂いで困らないでしょ?」
ファンタジー
公開:18/10/08 20:24
更新:18/10/08 22:30

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