何を盗もう

マリさんは泥棒だ。
でも、ここのところマリさんは何を盗んだらいいのか悩んでいた。ピラミッドも万里の長城も、盗んではみたもののただ持て余し、楽しみ方も分からないまま元の所に返すだけだった。ピラミッドは場所を間違えて戻しちゃったけど、そんなことはたぶん、バレてない、はずだ。
マリさんがこの前「富士山の地下からマグマを盗みたい」と言った時には、僕の部屋に持って帰ってくるのは絶対イヤだと断った。
そうして今夜、マリさんは何を盗もうか悩みながら街へ出かけた。突然の雷雨で一帯は停電し、僕はマリさんが無事に帰ってこれるか心配した。でも、深夜になってマリさんはびしょ濡れの身体にキラキラした笑顔で帰ってきて、その夜の獲物を部屋中にばら撒いた。それは僕らが住む街の灯りだった。家々から消えた灯りが暖かく丸く転がった。
マリさんは灯りの球を手のひらに乗せて、ふっと息を吹きかけて、窓の外、元の家へ飛ばしていった。