泳ぐ会社

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裏原宿の裏。
それは表じゃなくて、渋谷川の暗渠のことだ。
我が社ではこの川を泳ぐ列車を開発中だ。株式会社思い通り。夢を魚にする会社。
それは移動オフィス。移動商店街。移動しっぱなしの列車の中で買い物や仕事、生活をする。週末を過ごす場所が行き先になる。レールのない水中列車が私たちを乗せて世界各地に誘ってくれる。
金曜の夜にブエノスアイレスに着く列車に乗って、会議をするし、恋もする。決算報告も、昇進も、うたた寝も。それは寝台列車というわけじゃなく、生活まるごと列車。フットサルやカバディだってできる。家庭菜園だってある。水があれば川や海でなくたっていい。水路があればたどり着ける。人生のように道は無数にある。
列車の形状は獰猛な流線形。ハモに似せた。
試験列車を近海に泳がせているが、精巧に作りすぎて帰ってこないものがある。
ハモの骨切り。
あれは私たちの夢が破壊されている音。
もう食べちゃいや。
公開:18/10/05 11:44
更新:18/11/01 11:17

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