蟻の仕事

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「それから以後、どうだい?」
 叔父さんが部屋を覗く。僕は会釈して、畳を這う蟻を目で追う仕事に戻る。
「この国もようやく『生存権』のなんたるかを知った、というわけだ」
 叔父さんは部屋に上がりこんできた。
「持ってる奴が分け与える。それをようやく思い出したってわけだ」
「そういうもんですか」
 僕は蟻を見送り、次の蟻を探している。
「人は嫌なことを続けると歪んでくる。マラソンだって、あれ強制だったら立派な拷問だぜ」
 学校教育ではそれが公然と行われていましたが… と思ったが僕は黙っている。
「一方、無給の3K労働だってボランティアなら、達成感と充実感が得られるじゃないか」
 それこそ、金持ちの道楽みたいなものでしょう… と思ったが、僕は五匹目を探すのに忙しい。
「ともかく。続いているようで何よりだ」
 叔父さんが部屋を出る。
 その時僕は、蟻が消失する瞬間を目撃し、書類に「正」が完成する。
その他
公開:18/10/06 11:42

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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