メビウス熊五郎の巻

6
7

ケチな盗人の熊五郎。逃げる途中でつまづいて、でんぐり返り。その途端、目の前が真っ暗んなってヌメヌメしてる。
「なんだいこりゃ」
 遠くから女子供の悲鳴に、役人の怒号だ。
「こりゃ、でんぐり返った拍子に口から尻までぺろ~んと裏返っちまった!」
 背に腹は変えられねえ。熊五郎「助けてぇ」なんぞと叫んでみる。
「奴めこの中に隠れておるな」
 お役人。庭バサミで真ん中からジャキジャキ切り始めた。
「イタ… いや痛くねぇな。人間、裏からなら案外平気」
 とはいえ熊五郎、腹を括った。ただひとつの気がかりは、
「今俺、メビウスの輪っかみてえになってたら、でっかい輪っかになっちまう。こりゃ末代までの恥だ。切るの待った…」
 熊五郎。番所で両手括られて水ぶっかけられて気がついた。
「なんだこいつ。目を覚ました途端に笑っておる」
「ありがてぇ。次、裏返ったときは、この紐を引けばいい」
お後がよろしいようで。
SF
公開:18/10/03 17:13

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容