大気圏のほとり

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人が嫌いになって、家出をしてから140年になる。
今は大気圏の少し外側にある、使われなくなった駅舎でひとり暮らしをしている。
地球からひと駅の距離なのに、光速船が止まることがないために忘れられた場所。
いつのまにか居ついた柴犬がいるからひとりきりではないけれど、家族だとも言えないのは、柴犬がいつまでも懐かないから。
それでも散歩には連れてゆく。
その日使う分の酸素を取りに大気圏のほとりへ。地球の酸素のおいしいところ、その上澄みだけをボトルに詰める。ほとりで朝ごはんを食べたら、地球のうたを口ずさむ。
魚眼レンズみたいな地球の淵を散歩して、やっぱり地球が好きだなぁと思う。
私がいない間にすっかり地上は冷えてしまった。
私は太陽。近すぎても遠すぎても困らせてしまう。
柴犬の遠吠えが波紋のように広がって、地球への思いを伝えている。
かつての地球人よ。
私と犬が老いた地球を介護するよ。
公開:18/10/04 12:11
更新:18/10/11 11:06

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