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今日もあの娘は、仕事が遅かったらしい。深更に帰宅するや否や、化粧も落とさず眠ってしまう。そんな生活がここのところずっと続いていた。
そんなことを考えながら楽器の手入れをしていると、炊飯器が叫んだ。
「おおい、炊きあがったよ!」
その言葉を合図に、炊飯器の陰から飛び出すと、僕はラッパを構えた。
奏でるのは、あの娘が幼少の時分から好きだったあの曲だ。広漠とした大地を駆け回り、澄んだ外気を肺いっぱいに吸い込む羊のような、弾む音律。
『メリーさんの羊』の旋律が室内に響き渡ると、あの娘は眠たそうな眼瞼をこすり、やおら起き上がった。
――張り詰めて切れる寸前の糸のようなあの娘が、あたたかいご飯を食べられますように。
僕は小さな胸でそう願い、そっとラッパを降ろした。
そんなことを考えながら楽器の手入れをしていると、炊飯器が叫んだ。
「おおい、炊きあがったよ!」
その言葉を合図に、炊飯器の陰から飛び出すと、僕はラッパを構えた。
奏でるのは、あの娘が幼少の時分から好きだったあの曲だ。広漠とした大地を駆け回り、澄んだ外気を肺いっぱいに吸い込む羊のような、弾む音律。
『メリーさんの羊』の旋律が室内に響き渡ると、あの娘は眠たそうな眼瞼をこすり、やおら起き上がった。
――張り詰めて切れる寸前の糸のようなあの娘が、あたたかいご飯を食べられますように。
僕は小さな胸でそう願い、そっとラッパを降ろした。
その他
公開:18/09/29 16:58
妖精
炊飯器
メリーさんの羊
二十代半ば、会社員のかたわら執筆しています。
まだ拙い部分もありますが、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
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