水の孤島

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どこまでも波1つたたない湖面を見ながら、もうこのまま沈んで、息ができなくなれば良いと思った。

鬼から逃れてここまで来たが、一緒にいたあの人は食べられたのだ。私が生きていることに意味があるものか。

たどり着いた森の湖は、初めて来た。そろそろと水辺に寄り、座り込む。湖面に映るのは、希望を無くしたひどい顔だった。私はそのまま顔を湖面につけた。

ふと声を聞いた気がして。

水のなかで目を開けると、死んだはずのあの人の顔があった。はっとして目を凝らすと、後ろにたくさんの知らない顔も見えた。皆、魚の尾を揺らめかせ、私を見ていた。

「一緒に行こう」

声を聞いて安堵したと同時に、足元の感覚が不意に変わる。踏ん張っていられずに、そのまま水の中に滑り落ちた。見ると腹から下が変化していた。

以来私達はここで暮らしている。ここは水の孤島。あなたと私、誰にも邪魔されない場所。
その他
公開:18/09/29 09:53
更新:18/11/16 21:51

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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