星を摘む旅人

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旅人は、またひとつお気に入りの星を摘んだ。
古びた革のポシェットはずしりと重く、旅の軌跡を思わせる。

メリダの町では、孤独な星を。ウベアの島では、両手いっぱいの天の川を。ガイランゲルでは、二つ寄り添う星をまとめて。

故郷についたら、ポシェットの星を夜空に放ち、星を知らない家族を喜ばせるのだ。

旅の途中で、旅人はジプシーに出会った。彼は立ち尽くしていた。
「どうしたんだい」
「困り果てたよ」
「なぜ?」
「道しるべの星が、忽然と消えたんだ」
「まさか」
「世界中のジプシーが路頭に迷ってる。家族には会えそうにない」
そう言って目を伏せた。

旅人は悩んだ。あと少しで故郷だった。
悩んだあげく、振り返った。

再び、長い旅路が続く。 ひとつ、またひとつ星を返すごとに、旅人は嬉しくも寂しくもある。
それでも旅人は荒野を歩く。
愛する家族を、たった一つの道しるべにして。
ファンタジー
公開:18/09/28 11:00
更新:18/10/04 23:05

あおい( 北海道 )

結婚し、幸せになりを潜めて3年。
再び書きたくて登場。
多分そのうちまた消える。

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