溶解工事

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 産まれて以来、三十年暮らした実家が半壊する様を、俺は驚くほど冷めた気持ちで見つめていた。空高くクレーンで吊り下げられたドラム缶の底から降り注がれる薬材の雨は、熱で温められたチョコレートのように屋根を静かに溶かしていく。
 取り壊しも、昔は重機で物理的に壊していたが、騒音や舞い上がる粉塵が社会問題となり、今や薬品で建材を溶かす手法が一般的だ。
 溶けた建材によって、地面は絵の具を好き勝手ぶちまけたような、センスのない迷彩柄に染まっていく。その色彩を見て、ある欲求に掻き立てられた俺は、半分溶けた玄関をくぐり、かつてリビングだった場所に移動した。
 そして、俺は直立姿勢で、色の一部となれるよう願いながら、瞑想した。


 目をあけてみると、俺は全裸で立ち尽くしていた。とうやら、この薬は人間には影響がないらしい。
 幼稚な願いに苦笑いすると、遠くから、パトカーのサイレンがゆっくりと近づいてきた。
ファンタジー
公開:18/09/30 18:01
更新:19/12/31 17:02

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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