5
13

 取材が終了し、記者は帰って行った。
 テーブルの上には撮影に使った私の作品が並んでいる。
 枝豆、オクラ、トースト、唐辛子にチョコレート。
 本物そっくりだが、全て木彫りだ。
 私はため息をついた。
 記者にたずねられて、「先祖の影響で本物そっくりにこだわるようになりました」とか、「先祖は日本人ではない」なんて、いらないことを口走ってしまった。
 嘘ではない。
 嘘はつくなというのが、その先祖が残した家訓だ。
 ただ、先祖の話をする必要はなかったのだ。詳細を追及されたら、困るのは自分なのに。
 それでも、作品のことを考えると、どうしても、先祖のことを考えてしまう。
 木を彫り、本物に似せていく。その最後はどこに行きつくのか。妖精の力なしで、どこまでできるのか。
 私はカバンから先祖が書いた家訓の紙を取り出した。そこにはイタリア語でこう書かれている。
「嘘をついてはいけない。 ピノキオ」
ファンタジー
公開:18/09/26 23:28

田辺 ふみ

名作絵画ショートショートコンテストで「復元師」が太田忠司賞を受賞しました。
キンドルでSF短編を発売中。https://amzn.to/37n3Bjv
「ショートショートの花束」8と9にものっていますので、よろしく。
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容