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蝶のように鳥のように自由にあちこちに行ってしまうあなたを、私達は唯々待つしかありませんでした。

生きているのか死んでいるのかわからない人を待つ、鬼胎を抱えて生きるのは心が空の闇に堕ちるのに充分な理由でした。

もう待つのを辞めた、ある秋の夜。

漸くあなたから私達を呼んでくれました。
だのにあなたはすっかり動かなくなっていて、薬品の香る部屋で展翅板にとめられて
キラキラしていた瞳と心はすっかり失くなっていました。

羽根が留められてはもう何処に行く事も出来ません。
手や足は氷のように冷たいのに、心の臓を中心とした胴体ばかりは医者も驚くほどに温かく
医者は何事かの説明をし、励ましの言葉などもくれましたが、もうずっとあなたの心の片割れは天上にあり、此岸に無い事を知っている私達は
終ぞや残りの半分も、近くその温かい心ひとつだけ持って本当に旅立ってしまうのだと予感して泣きました。
ファンタジー
公開:18/09/28 07:37
更新:18/09/29 20:23

椿あやか( 猫町。 )

【椿あやか】(旧PN:AYAKA) 
◆Twitter:@ayaka_nyaa5

◆第18回坊っちゃん文学賞大賞受賞
◆お問合せなど御座いましたらTwitterのDM、メールまでお願い申し上げます。

◆【他サイト】
【note】400字以上の作品や日常報告など
https://note.com/nekometubaki



 

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