命の水

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その村には何も無かった。
けれど村人は幸せに仲良く暮らしていた。

白い魔法使いが村に立ち寄った。
彼女が壺から出した水を撒くと、灰色の砂漠に花が現れた。
大人たちは花が生まれたと喜び、子供たちはこの世界に赤や青、黄色があるのだと知って喜んだ。
それに留まらず、馬や牛、虫さえもがその水によってもたらされた。

村は命に満ちた。

誰かが、それは命の水だと言った。
誰かが、命の水を飲むと永遠に生きられると言った。
村人は白い魔法使いに水を差し出すよう迫った。
彼女が断ると、村人は彼女が留守の間に水の入った壺を盗み出した。
村人は水を飲んだ。
それから彼らは殺し合った。

それは"命の水"ではなかった。
その昔、黒い魔法使いに隠された姿を現す力を持つ水だった。
水は生き物だけでなく、普段村人が隠していた感情までも露わにした。
怒り、妬み、嫉み、憎しみを露わにした。

その村には何も無くなった。
ミステリー・推理
公開:18/09/24 23:09

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