陰花寺遺文 ―各務原の段より

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 八百余段を上り詰めた石段の先。山門がギィーと軋む。と、それまで石段の三段下の小宮山つまり私をいたぶっていた美少女ミサキは、サッと眉を顰め、スーと体を左へ流します。
 その刹那、門が弾かれたように開き、石段の縁を薙ぎ払う。ミサキはトントントンと石段を下り、小宮山つまり私の背中をぎうと踏みしめて、
「ストーカーなら誠意を見せなさい」
という。
「いや僕はそういうんじゃ」
「馬鹿、動くな!」
 軽くなる小宮山つまり私の背中。
「ミサキッ!…さん?」
 転げ落ちるミサキの残像を鎖鎌が突き抜ける。たまらず転げ落ちる小宮山。ほどなくミサキに追いつく。すると、ミサキの方から抱きついてきた。
「入れ替わらないかしら」
「入れ替わってもいいさ」
 ゴロゴロと転げ落ちる二人。その上を凄まじい速さで叢雲が走ります。そこへ腰が直角に曲がった老僧が、今、山門からブーメランのように飛び出したのでありました。
青春
公開:18/09/21 19:11
更新:18/09/21 21:11

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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