35
67
秋祭りの縁日で「花すくい」という屋台を見つけた。覗いてみると、無数の金魚が泳いでいた。いや、それは金魚ではなく、数ミリ程のオレンジ色の花だった。
「金木犀……?」
「ええ。金魚すくいの要領ですよ。どうです、お客さん」
頷くおれに店主はポイを渡してくれた。
小さな花は花びらを揺らして泳いでいた。ポイを近づけ掬ってみる。が、ぴちぴちと跳ねた花は紙を破って逃げていった。
それで火がつき、おれは真剣に花に向かった。紙が丸々破れるまで熱中し、気づくと容器の中にはたくさんの花が入っていた。
「大事にしてやってくださいね」
店主はオレンジになったビニール袋を渡してくれた。
こうして家の水槽で花を飼うようになってから、おれの暮らしは華やいだ。
花たちが水草で身体を休める光景は、満開の金木犀さながらだった。そして特筆すべきはエサやりのとき。寄ってきた花が水面を乱せば、甘い香りがふわりと部屋を包むのである。
「金木犀……?」
「ええ。金魚すくいの要領ですよ。どうです、お客さん」
頷くおれに店主はポイを渡してくれた。
小さな花は花びらを揺らして泳いでいた。ポイを近づけ掬ってみる。が、ぴちぴちと跳ねた花は紙を破って逃げていった。
それで火がつき、おれは真剣に花に向かった。紙が丸々破れるまで熱中し、気づくと容器の中にはたくさんの花が入っていた。
「大事にしてやってくださいね」
店主はオレンジになったビニール袋を渡してくれた。
こうして家の水槽で花を飼うようになってから、おれの暮らしは華やいだ。
花たちが水草で身体を休める光景は、満開の金木犀さながらだった。そして特筆すべきはエサやりのとき。寄ってきた花が水面を乱せば、甘い香りがふわりと部屋を包むのである。
ファンタジー
公開:18/09/21 14:56
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。
◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/
ログインするとコメントを投稿できます