花すくい

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秋祭りの縁日で「花すくい」という屋台を見つけた。覗いてみると、無数の金魚が泳いでいた。いや、それは金魚ではなく、数ミリ程のオレンジ色の花だった。
「金木犀……?」
「ええ。金魚すくいの要領ですよ。どうです、お客さん」
頷くおれに店主はポイを渡してくれた。
小さな花は花びらを揺らして泳いでいた。ポイを近づけ掬ってみる。が、ぴちぴちと跳ねた花は紙を破って逃げていった。
それで火がつき、おれは真剣に花に向かった。紙が丸々破れるまで熱中し、気づくと容器の中にはたくさんの花が入っていた。
「大事にしてやってくださいね」
店主はオレンジになったビニール袋を渡してくれた。
こうして家の水槽で花を飼うようになってから、おれの暮らしは華やいだ。
花たちが水草で身体を休める光景は、満開の金木犀さながらだった。そして特筆すべきはエサやりのとき。寄ってきた花が水面を乱せば、甘い香りがふわりと部屋を包むのである。
ファンタジー
公開:18/09/21 14:56

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。15年からは自らが発起人となり立ちあがった「ショートショート大賞」において審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、新世代ショートショートの旗手として幅広く活動している。著書に代表作『海色の壜』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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