タイムカプセル集配員

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 休日。玄関チャイムが鳴る。
「タイムカプセル集配員です」
 俺はゲームデータをセーブして扉を開け、集配員からカプセルを受け取る。
【上司とうまくやってますか? ギターは上達しましたか?】
 5年前の俺は、いつだって、今の俺を見下していた。
「5年ごとに、自分の不幸を確認する意味なんてないだろ」
 集配員は、頭を垂れて神妙にしている。
【5年前の方がマシだと思うなら、潔く死ぬべきだ】
 俺は立ったままそう書いてカプセルに入れ、集配員に渡した。
「そしてこちらは、先月ご不在分の【結婚5年目】の分です」
 やれやれ。
 来年は【離婚5年】【独り暮らし15年】もあるのか…
「忘れさせてもらえないのかな」
 俺は【忘れろ】と書いた手紙をカプセルに入れて尋ねた。
「絶対に駄目です」
 その一瞬だけ集配員は真顔だった。
「受領書と預り書にハンコお願いします」
 集配員が帰り、俺はゲームの続きに戻った。
ファンタジー
公開:18/09/23 22:30
更新:18/09/23 22:32

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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