音楽の街

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 第三金曜日午後三時。市街地のもくれん通りのビルの窓や屋上から、音が降りそそぐ。
「セッション? 違うね。これは殺し合いさ」
 腕に覚えのあるものだけが、ここに集結する。演奏開始そうそう、新参のコルネットが微妙にハシッた。バイオリンが正確なリズムでアルペジオを繰り返しベースが呼応する。コルネットは脱落だ。次第に、主要なピッチと流れが定まってくる。
 トランペットが転調を試み、フルートが対応する。グルーブが起こる。アルトサックスがついてこられない。彼は楽器をケースに仕舞う。
 ソロ回しが始まる。ソロの受け渡しは、奏者が認めた相手のフレーズをソロに組み込むことで伝える。バイリンが、八分の五拍子の後ろの一拍目に、トランペットのフレーズを一音ずつ組み込んだ。トランペットは、それを聞き逃さなかった。

 セッションが行われる1時間にわたって、この界隈の交通と経済活動は麻痺し、何人かが音楽生命を断つ。
その他
公開:18/09/23 16:39

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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